賃金を現物で支払うと言われた
商品の販売会社で働いていますが、会社から「賃金(給料)を現金で8割、残り2割を商品(売れ残り)で支払うと言われたのですが、すべて現金でもらえないのでしょうか。
まず知っておきましょう。
(1) 賃金支払いには、5つの原則があります。
労働基準法では賃金の支払いについて次の5つの原則を定めています
(労働基準法第24条)。
① 通貨払いの原則
賃金は、通貨で支払わなければなりません。したがって現物給付等はできません。ただし法令又は労働協約で別に定めがある場合を除きます。
上記の法令又は労働協約で別に定めがある場合ですが、
例 労働協約の定めがある場合。
1 労働協約で、通勤定期の現物支給を定めた場合などです。
例 法令の定めがある場合。
2 厚生労働省令(法令)で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合 (労働基準法施行規則第7条の2)
A 賃金の口座振込み。労働者の同意を得た場合のみ。
B 退職金の自己宛小切手等による支払等があります。
② 直接払いの原則
賃金は、労働者本人に支払わなければなりません。労働者が未成年者の場合も、親や代理人に支払うことはできません。(労働基準法第五十九条)
なお未成年者については、労働契約の締結についても、親権者又は後見人が、未成年者に代つて労働契約を締結してはいけません。(労働基準法第五十八条)
労働者が第三者(債権者)に賃金を譲渡した場合であっても、直接払いの原則にのっとり本人に支払わなければなりません。
法による差押えにもとづいて行われる取立ては、直接払いの原則は適用されませんが限度額の制限があります。
③全額払いの原則
賃金から、所得税や社会保険料など、法令で定められているもの以外を控除する場合には、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、これがない場合は労働者の過半数を代表する者との間に、労使協定を結んでおくことが必要です。前借金がある場合、前もって清算した賃金を渡すことはできません。全額払いの原則にのっとり、全額支払ったうえで、清算することになります。
④毎月1回以上払いの原則
毎月支払わなければなりません。
2か月間に1回の支払いは、できません。逆に1月の間に2回の支払いは、問題ありません。
⑤一定期日払いの原則
賞与などの臨時的に支払われるものを除き、賃金は毎月1回以上、一定の期日に支払日を決めて支払わなければなりません。
対応例
賃金の通貨払いの原則は、通貨で支払うことにより確実に労働者に賃金が渡るようにしたものです。現物給付が認められないのは、通貨と同一とはいえず、換金に際しての手間や価格の毀損等で不利益になるからです。
現物給付の物品と通貨が同一価値であれば、会社(使用者)が換金(販売)して現金で渡せばよいわけです。ところが、この換金出来なかった(売れ残りや、過剰在庫=価値が少ない)を賃金の代わりにするのは、労働者の不利益になる恐れが多いでしょう。
このような理由から、労働協約に別段の定めがある場合のほかできません。
したがって「賃金を現物で支払うと言われた」場合、
通貨払いの原則があり、できませんが、「労働協約に別段の定め」がある場合のみできます。ですから「労働協約に別段の定め」があれば「賃金を現物で支払う」が出来ます。なければ出来ません。
■労働協約とは
ここでいう労働協約は、労働組合法でいう労働協約です(労働組合法第14条)。
労働組合法第14条では、労働協約は「労働組合」と「使用者」との間で書面を作成し、両当事者が署名又は記名押印することよつてその効力を生ずる、とされています。
労働組合がない場合には、労働者の過半数を代表するものと協定を締結しても労働協約にはならず、現物給付を行うことはできません。現物給付を行うには、労働組合との労働協約が必要です。
労働協約の対象は原則として当該組合の組合員に対してだけとなります。ただし事業場の4分の3以上の労働者がこの労働協約の適用を受けるに至ったときは、この事業場の他の労働者に関しても、労働協約が適用されます。
「労働協約に別段の定め」があった場合、現物給付(賃金を現物で支払う)が可能ですが、賃金に対する現物給付の割合や現物の価格評価(材料費のみとするのかあるいは、卸値、店頭価格)など問題になりやすいでしょう。なお不当に高く現物の価格評価を行い現物給付を行えば、賃金未払いになる可能性があり得ます。
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